2013年6月26日、秋田で開催された日本睡眠学会第38回定期学術集会理事会において、清水徹男前理事長の後任に選出されました東京慈恵会医科大学精神医学講座の伊藤洋です。今後の学会運営に関する会員の皆様のご協力とご支援をよろしくお願いいたします。

私の任期は2015年までの2年間ですが、その間の課題として以下に述べる3つの目標を上げさせていただきます。

まず第1は学際的学会としての学術集会体制を確立する事です。本学会の会員数は過去20年間で飛躍的に増加し、2013年7月時点での会員総数名は3256名を数えるに至っています。そして、その内訳は医師1543名(精神科450名、呼吸器科337名、耳鼻科189名、循環器科130名、神経内科73名等)、歯科医師289名、検査技師914名等と多岐にわたり、きわめて学際的な学会であります。現時点においても、学術集会では各領域における、きわめて熱心で学術的にもレベルの高い研究発表が行われている事に何の疑いもありません。これに加え、今後学術集会において学会主催による学際的なセッション(例えば睡眠時無呼吸症候群の残遺眠気に関して異なる診療科の医師、歯科医師、技師等で検討するセッション等)をさらに充実増加させるよう努力致します。

第2に学会員の意見を反映できる評議員・理事の選出方法を構築する事です。先に述べましたように、本学会は異なる学問的背景を持つ、多様な職種の会員により構成されています。本学会が法人化された事により、これまで以上に評議員会での意見の検討が学会運営に重要な意味を持つ事になります。こうした事からこれまでの評議員選出制度の問題点と課題を慎重に検討し、会員の意見がバランスよく十分に反映させる評議員選出制度を構築するよう努力致します。

第3は他学会との連携をさらに強化する事です。睡眠学の重要性が広く認識されるに伴い、多くの学会において睡眠に関する研究発表が行われています。本学会は睡眠に関する基幹学会として、他学会との関連を密にするよう努めて参ります。また、海外、特に睡眠研究面でも最近著し発展を遂げているアジア諸国の睡眠学者と連携を密にし、本学会がアジア・世界に向けて情報を発信していく体制を構築するよう努力致します。

当然の事ではありますが、会員の皆様のご協力、ご支援無くして上述の目標を達成する事は不可能です。日本睡眠学会会員の皆様のお力添えをお願い申し上げます。

日本睡眠学会理事長  伊藤 洋

学会のプロフィール
はじめに

人間にとって睡眠は人生のおよそ3分の1を占める休息、安らぎを得るための時間ですが、その役割や重要性が科学的に明らかにされるようになったのは比較的最近のことです。

近年、生活様式の多様化、夜型化により睡眠時間が短縮し、それによりさまざまな弊害が生じています。たとえば、睡眠不足による昼間の眠気から増加している交通事故や、新幹線の運転士の居眠りなどは皆さんの記憶に新しいことでしょう。昼間の眠気は事故ばかりでなく毎日の就業や勉学に生産能率低下を引き起こし、このような状態が長期化すると心身への影響もみられ、不安やうつ状態をまねく場合があります。さらに、これらの睡眠の問題は社会経済問題をも引き起こします。睡眠不足だけでなく、今や国民の4〜5人に1人が睡眠について何らかの悩みをもっていると言われています。睡眠は、単に「睡眠医学」の領域のみならず社会経済問題からみた「睡眠社会学」、および睡眠の役割やメカニズムを研究する「睡眠科学」、の3つの切り口から取り扱っていこうという機運が高まり、これら3つをまとめて「睡眠学」という新しい学問体系が成立しつつあります。

睡眠研究の歴史

現代の科学的な睡眠研究は、嗜眠性脳炎の脳の損傷を調べたEconomoの研究(1926)にさかのぼることができます。この研究は脳の電気刺激によって睡眠を誘発することに成功したHess(1954)らの研究やMoruzziとMagounによる覚醒の神経機構である上行性脳幹網様体賦活系の発見(1949)に受け継がれ、睡眠と覚醒のメカニズムにようやくメスが入れられて本格的な睡眠研究の幕開けが到来しました。これらの研究に大きく貢献したのは頭皮上から電気活動を記録することに成功したBergerによる脳波の発見(1929)です。さらに、米国シカゴ大学におけるAserinskyとKleitmanによるヒトのレム睡眠の発見(1953)により睡眠研究は飛躍的な発展を遂げ、シカゴ大学のDement(1958)、フランスのJouvet(1959)、日本の島薗(1960)らのイヌやネコでのレム睡眠の発見へと続いていきます。

また、1990年代後半には睡眠中の脳血流量を画像研究によりとらえられるようになったことで、睡眠の各段階で脳のどの部位が活動しているのか、睡眠薬が脳のどの部位に作用するかについても明らかにされつつあります。古くからその存在を知られていたナルコレプシーという過眠と情動脱力発作を特徴とする古典的な疾患も、急速に進歩する研究技術の開発によってナルコレプシー犬で髄液中のオレキシンが低下していることが発見されました(1999)。このようにIT技術やエレクトロニクスの発展、分子生物学の進歩に伴う分子レベルでの解析が次々と新しい発見をもたらしつつあり、睡眠科学の発展は睡眠障害の診断・治療に大きな進歩をもたらすことが期待されています。

日本睡眠学会の成り立ち

一つ目はSBRを一流誌として育て上げることです。わが国の睡眠研究は、海外で活躍する日本人研究者はもちろんのこと、国内にあっても国際的な第一線の研究が活発に行われています。20世紀初めに日本の石森国臣(1909)とフランスのPieron(1913)が睡眠の誘発や睡眠の維持に関与する「睡眠物質」の存在を提唱しました。彼らはそれぞれ独自に、断眠させて非常に眠気の強いイヌの脳脊髄液を別のイヌの脳内に注入してそのイヌが眠ることを観察しましたが、睡眠物質の実態が明らかになったのはつい最近のことです。現在では動物の脳、血液、尿などから約30種類の睡眠物質が同定されています。日本でも井上らがウリジンや酸化型グルタジオンを睡眠物質として同定、さらに最近では早石らがプロスタグランディンD2をはじめとするサイトカイン、アデノシンなどを発見し、睡眠物質に関する基礎研究では日本は世界のリーダー的存在となっています。このような国際的研究の成果はSBRを通して日本から発信していきたいと考えています。また、基礎研究だけでなく臨床研究においても詳細な観察と症例の蓄積は世界に類を見ませんし、ヒト時間生物学領域における独創性は高く評価されるべきです。これらについても私たちはもっと誇りを持つべきで、SBRを国際誌として大いに利用し、さらに一流誌に発展させることが重要であると考えます。

二つ目は睡眠研究・医療の拠点作りのさらなる推進です。日本では滋賀医科大学を皮きりに睡眠学講座が各地に設置されつつあります。設立の目的はいずれも睡眠科学・睡眠障害を中心とした睡眠研究、市民の睡眠医療の発展、医師パラメディカルスタッフの育成です。このような総合的な構想は国際的にみてもかなりユニークであり、これまで欧米にもなかったシステムが日本で構築され、広がろうとしています。これらの拠点が他の講座と同様、全国の大学に波及し、さらに大学だけでなく裾野を拡大していくための支援をしていきたいと考えています。

三つ目は世界各国との連携です。睡眠学会国際連合“World Federation of Sleep Research Societies(WFSRS)”や米国国際睡眠医学会“American Academy of Sleep Medicine(AASM)”などと連携を保ちながらこれまでも多くの国際シンポジウムや国際会議を開催、参加してきました。また、本学会が設立に参画したASRSの理事長は大熊輝雄(1994-1997)、井上昌次郎(1997-2000)、太田龍朗(2000-2004)、と引き継がれ、現在はインドのKumar教授が務められております。引き続き国際交流は欧米やアジア地区との間で活発に行う予定です。

四つ目は健全な社会を維持するための総合科学としての睡眠社会学の推進です。昨今、社会の24時間型化によりさまざまな社会生活上の問題や弊害が取り上げられてきました。ストレス、過労、睡眠不足が生活習慣病やうつ病の増加、国民の健康な生活の破綻を引き起こし、また産業事故の誘因となり、勤務や学校生活を困難なものにしているようです。そしてこのような疾病や、就労・就学不備による社会経済的損失が莫大であることが少しずつ認知されるようになってきました。ヒトが健全に生きていくための基本に食行動と共に睡眠、休養があることを忘れずに、さらに睡眠を重視した社会生活を推進することが21世紀の課題であると考えます。折りしも、2004年には科学研究費の細目に「睡眠学」が認められるという画期的な出来事がありました。国を挙げて睡眠研究と健康増進に取り組む方向がいっそう強まってきたといえます。このような視点から私ども学会員の一人一人が課せられた責務を重く受け止めなくてはならないと考えています。

日本睡眠学会はこれまで述べてきましたように、睡眠の科学研究の推進および睡眠に関する医学・医療の充実、それらを通して国民の健康増進に寄与することを目的として設立されています。このホームページは、睡眠科学と睡眠臨床に関する科学的知識を、国民の皆様方や医療機関の方々に広く提供することを目的として開設されています。皆様方の睡眠健康の増進に、本ホームページがお役に立てるよう学会員共々努力していきたいと考えておりますので、どうぞ強力なご支援とご協力をお願い申し上げます。


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