2007年11月に大川前理事長が理事定年を迎え退任なさったことを受け、その後任に選出されました清水徹男(秋田大学医学部神経運動器学講座精神科学分野)でございます。なお、大川前理事長はアジア睡眠学会(ASRS)理事長、世界睡眠学会連合会(WFSRS)副会長として今後も日本のみならず世界の睡眠学の進歩・発展をリードして下さいます。

私の任期は2011年の理事会まででございます。その間の課題として4つの目標を掲げさせて頂きます。

第一に、日本睡眠学会が法人格を取得し、本学会が社会に対する責任をより明瞭に果たす体制を構築することです。この点につきましては小林理事のご尽力により間もなく中間法人の取得として実現する見込みです。法人法の改定が次年度にも行われる見込みですので、その後の対応にも注意を払っていく所存です。道路交通法問題、サマータイム問題、リタリン濫用問題などに引き続き、日本睡眠学会がその見解を問われる場面が今後とも増加するものと思われますが、社会に対する責任ある発言を行うためにも、また行政との交渉、他学会との協同、研究予算の獲得、睡眠医療の地位向上などのためにも法人格取得は必須であると考えます。

第二に、日本で開催されます二つの国際会議、すなわち2009年のアジア睡眠学会、2011年の世界睡眠学会を成功に導くための道筋をつけることです。これらの国際学会は何れもASRSがホストになります。しかし、JSSRはASRSの中核メンバーであり、また二つの国際会議を日本で開催する責任がありますので、日本睡眠学会はその準備・資金確保と運営にはASRSと協力して全力を傾注する必要があります。ことに、世界睡眠学会には2500名もの参加者が見込まれますので、その準備には本学会が大きな汗を流す必要があると思います。

第三は、睡眠医療のさらなる充実・発展をはかることです。日本睡眠学会認定医療認定制度のもと、2010年7月現在、我が国には382名の日本睡眠学会認定医、35名の認定歯科医、369名の認定検査技師、79の日本睡眠学会認定医療機関が存在します。しかし、日本の睡眠医療はまだまだ質・量的に充足としているとは言い難い現状にあります。ところが、認定制度の暫定移行措置が終了して本格的な認定試験が始まってからは、認定医と認定歯科医の受験者が少ない現状にあります。受験者を増やすためにも、睡眠医療の充実を図るためにも学会認定資格が国のみとめる専門医制度の中に位置づけられるよう、努力する必要があります。その一段階として、日本医学会加入の実現性を検討すること(内山理事)、認定教育施設制度と指導医制度の導入を検討すること(井上理事)につき、検討を進めます。

第四は、睡眠学のさらなる発展を促進するための大型プロジェクト予算の獲得を目指すことです。本学会の現在の発展には、旧科学技術庁(現文部科学省)の科学技術振興調整費による大型研究班「日常生活における快適な睡眠の確保に関する総合研究」(平成8−13年度)がそのブースターの役割を果たしたことをご存じの方も多いかと存じます。早石 修先生(大阪バイオサイエンス研究所名誉所長)をリーダーとして本学会を代表する睡眠科学、睡眠社会学、睡眠医学の専門家が六年間にわたり大型経費を得て研究活動を行えた結果、日本の睡眠学はまさに国際的にもトップレベルにまで到達し得たと申し上げることができます。日本睡眠学会の学術的価値をさらに高めるためにはこの種の大型プロジェクト予算を再度獲得する必要があります。

このような大きな課題を担うためには非力な私の能力のみではどうにもなりません。そこで日本睡眠学会の規約の改定を受け、二人の理事に副理事長として会務を分担して頂くことにいたします。本間副理事長(北海道大学大学院医学研究科総合生理)には学術・国際交流部門をご担当頂き、ASRSと協力して二つの国際会議を成功させること、本学会誌SBR編集発行の任務を担って頂きます。塩見副理事長(愛知医科大学循環器内科講座・睡眠医療センター)には睡眠医療、とりわけ本学会の認定医療制度をご担当して頂きます。事務局長を大井田理事(日本大学医学部公衆衛生)にご担当頂き、 約3000名という大所帯となった本学会の実務の指揮を執って頂きます。また、法人化に伴う法人会計制度の導入に伴い、財務担当理事として平田理事(獨協医大神経内科)にお力添えを頂きます。

2011年の世界睡眠学会を大川ASRS理事長、本間JSSR副理事長、裏出JSSR理事をはじめとする本学会員のご尽力で日本に誘致できたことは我が国の睡眠学が文字通り国際水準にあることを物語ります。2011年の世界睡眠学会には多くの海外の研究者の参加を得て貴重な学術情報の交換の場としたいと願っています。世界睡眠学会の成功を契機に、日本睡眠学会が更なる飛躍を遂げることが出来るようともに頑張りましょう。

もとより上記4つの目標を達成するためには会員の皆様のご支援無くしては不可能でございます。この場をお借りして日本睡眠学会会員の皆様のお力添えをお願い申し上げます。

日本睡眠学会理事長  清水徹男

学会のプロフィール
はじめに

人間にとって睡眠は人生のおよそ3分の1を占める休息、安らぎを得るための時間ですが、その役割や重要性が科学的に明らかにされるようになったのは比較的最近のことです。

近年、生活様式の多様化、夜型化により睡眠時間が短縮し、それによりさまざまな弊害が生じています。たとえば、睡眠不足による昼間の眠気から増加している交通事故や、新幹線の運転士の居眠りなどは皆さんの記憶に新しいことでしょう。昼間の眠気は事故ばかりでなく毎日の就業や勉学に生産能率低下を引き起こし、このような状態が長期化すると心身への影響もみられ、不安やうつ状態をまねく場合があります。さらに、これらの睡眠の問題は社会経済問題をも引き起こします。睡眠不足だけでなく、今や国民の4〜5人に1人が睡眠について何らかの悩みをもっていると言われています。睡眠は、単に「睡眠医学」の領域のみならず社会経済問題からみた「睡眠社会学」、および睡眠の役割やメカニズムを研究する「睡眠科学」、の3つの切り口から取り扱っていこうという機運が高まり、これら3つをまとめて「睡眠学」という新しい学問体系が成立しつつあります。

睡眠研究の歴史

現代の科学的な睡眠研究は、嗜眠性脳炎の脳の損傷を調べたEconomoの研究(1926)にさかのぼることができます。この研究は脳の電気刺激によって睡眠を誘発することに成功したHess(1954)らの研究やMoruzziとMagounによる覚醒の神経機構である上行性脳幹網様体賦活系の発見(1949)に受け継がれ、睡眠と覚醒のメカニズムにようやくメスが入れられて本格的な睡眠研究の幕開けが到来しました。これらの研究に大きく貢献したのは頭皮上から電気活動を記録することに成功したBergerによる脳波の発見(1929)です。さらに、米国シカゴ大学におけるAserinskyとKleitmanによるヒトのレム睡眠の発見(1953)により睡眠研究は飛躍的な発展を遂げ、シカゴ大学のDement(1958)、フランスのJouvet(1959)、日本の島薗(1960)らのイヌやネコでのレム睡眠の発見へと続いていきます。

また、1990年代後半には睡眠中の脳血流量を画像研究によりとらえられるようになったことで、睡眠の各段階で脳のどの部位が活動しているのか、睡眠薬が脳のどの部位に作用するかについても明らかにされつつあります。古くからその存在を知られていたナルコレプシーという過眠と情動脱力発作を特徴とする古典的な疾患も、急速に進歩する研究技術の開発によってナルコレプシー犬で髄液中のオレキシンが低下していることが発見されました(1999)。このようにIT技術やエレクトロニクスの発展、分子生物学の進歩に伴う分子レベルでの解析が次々と新しい発見をもたらしつつあり、睡眠科学の発展は睡眠障害の診断・治療に大きな進歩をもたらすことが期待されています。

日本睡眠学会の成り立ち

一つ目はSBRを一流誌として育て上げることです。わが国の睡眠研究は、海外で活躍する日本人研究者はもちろんのこと、国内にあっても国際的な第一線の研究が活発に行われています。20世紀初めに日本の石森国臣(1909)とフランスのPieron(1913)が睡眠の誘発や睡眠の維持に関与する「睡眠物質」の存在を提唱しました。彼らはそれぞれ独自に、断眠させて非常に眠気の強いイヌの脳脊髄液を別のイヌの脳内に注入してそのイヌが眠ることを観察しましたが、睡眠物質の実態が明らかになったのはつい最近のことです。現在では動物の脳、血液、尿などから約30種類の睡眠物質が同定されています。日本でも井上らがウリジンや酸化型グルタジオンを睡眠物質として同定、さらに最近では早石らがプロスタグランディンD2をはじめとするサイトカイン、アデノシンなどを発見し、睡眠物質に関する基礎研究では日本は世界のリーダー的存在となっています。このような国際的研究の成果はSBRを通して日本から発信していきたいと考えています。また、基礎研究だけでなく臨床研究においても詳細な観察と症例の蓄積は世界に類を見ませんし、ヒト時間生物学領域における独創性は高く評価されるべきです。これらについても私たちはもっと誇りを持つべきで、SBRを国際誌として大いに利用し、さらに一流誌に発展させることが重要であると考えます。

二つ目は睡眠研究・医療の拠点作りのさらなる推進です。日本では滋賀医科大学を皮きりに睡眠学講座が各地に設置されつつあります。設立の目的はいずれも睡眠科学・睡眠障害を中心とした睡眠研究、市民の睡眠医療の発展、医師パラメディカルスタッフの育成です。このような総合的な構想は国際的にみてもかなりユニークであり、これまで欧米にもなかったシステムが日本で構築され、広がろうとしています。これらの拠点が他の講座と同様、全国の大学に波及し、さらに大学だけでなく裾野を拡大していくための支援をしていきたいと考えています。

三つ目は世界各国との連携です。睡眠学会国際連合“World Federation of Sleep Research Societies(WFSRS)”や米国国際睡眠医学会“American Academy of Sleep Medicine(AASM)”などと連携を保ちながらこれまでも多くの国際シンポジウムや国際会議を開催、参加してきました。また、本学会が設立に参画したASRSの理事長は大熊輝雄(1994-1997)、井上昌次郎(1997-2000)、太田龍朗(2000-2004)、と引き継がれ、現在はインドのKumar教授が務められております。引き続き国際交流は欧米やアジア地区との間で活発に行う予定です。

四つ目は健全な社会を維持するための総合科学としての睡眠社会学の推進です。昨今、社会の24時間型化によりさまざまな社会生活上の問題や弊害が取り上げられてきました。ストレス、過労、睡眠不足が生活習慣病やうつ病の増加、国民の健康な生活の破綻を引き起こし、また産業事故の誘因となり、勤務や学校生活を困難なものにしているようです。そしてこのような疾病や、就労・就学不備による社会経済的損失が莫大であることが少しずつ認知されるようになってきました。ヒトが健全に生きていくための基本に食行動と共に睡眠、休養があることを忘れずに、さらに睡眠を重視した社会生活を推進することが21世紀の課題であると考えます。折りしも、2004年には科学研究費の細目に「睡眠学」が認められるという画期的な出来事がありました。国を挙げて睡眠研究と健康増進に取り組む方向がいっそう強まってきたといえます。このような視点から私ども学会員の一人一人が課せられた責務を重く受け止めなくてはならないと考えています。

日本睡眠学会はこれまで述べてきましたように、睡眠の科学研究の推進および睡眠に関する医学・医療の充実、それらを通して国民の健康増進に寄与することを目的として設立されています。このホームページは、睡眠科学と睡眠臨床に関する科学的知識を、国民の皆様方や医療機関の方々に広く提供することを目的として開設されています。皆様方の睡眠健康の増進に、本ホームページがお役に立てるよう学会員共々努力していきたいと考えておりますので、どうぞ強力なご支援とご協力をお願い申し上げます。


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